家を建てる際「在来工法か、ツーバイフォー工法か」と頭を悩ませる方が少なくないでしょう。一体、どちらが優れているのでしょうか?大きな買い物ですから、ベストな選択をしたいですよね。

残念ながら「どなたにもお勧めできるベストな工法」はありません。ですから、それぞれの工法の長所と短所を理解したうえで、さらに地域特性なども加味して自分に適したものを選択するしかありません。

本稿では、できるだけ客観的に、在来工法とツーバーフォー工法のメリットとデメリットをご紹介します。どの工法にするか迷われている方のヒントになれば幸いです。

木造住宅の種類

まずは、なぜ在来工法とツーバイフォー工法を比較するのか、その理由からご説明します。

主な木造住宅の工法

じつは、日本の木造住宅は、ほぼふたつの工法のどちらかで建築されています。林野庁がまとめた令和元年(2019年)のシェアを見てみましょう。

  • 在来工法(木造軸組工法):77%
  • ツーバイフォー工法(2×4工法、木造枠組壁構法):21%
  • 木質プレハブ工法:2%

上述のシェアを見ると、日本の木造住宅では在来工法が主流とわかります。ツーバイフォー工法は、近年シェアを伸ばしつつあるものの、在来工法との差は歴然としています。

とは言え、このふたつの工法でシェアが98%あります。なぜ、他の工法による建築がこんなに少ないのでしょうか?

理由は、在来工法とツーバイフォー工法だけが一般に技術公開されている「オープン工法」だからです。他の工法は「クローズド工法」と呼ばれ、採用している会社独自の工法で、いわば企業秘密になっています。ですから当然、シェアは伸びません。

このような状況ですから、まずは在来工法とツーバイフォー工法を比較検討して、必要に応じてその他の工法も検討すればよいでしょう。

在来工法(木造軸組工法)の特徴

日本には、古くから日本の気候・風土のなかで育まれてきた「伝統工法」と呼ばれる建築方法がありました。これを発展させ、現代的に簡略化したのが「在来工法 (木造軸組工法)」です。

先述のとおり在来工法は多くの建築会社が採用していて、建築会社選びをするとき、たくさんの会社の中から選べます。オープン工法ですから、まんがいち建築した会社が廃業しても、リフォームの際は別の会社に依頼できます。

在来工法は「縦の柱・横の梁 (はり)・斜めの筋交 (すじかい)」といった線材で支える構造になっています。柱と梁の接合部は複雑な加工をほどこして継ぎ、金物で留めて補強します。

在来工法の構造は線材で構成されていますので、気密性や断熱性を高めるには技術が必要です。耐震性は「面材で支えるツーバイフォー工法のほうが勝る」と言われていますが、最近は在来工法でも面材を使うようになり、その差がほぼなくなりました。

ツーバイフォー工法(2×4工法、木造枠組壁構法)の特徴

ツーバイフォー工法は、アメリカやカナダで標準的に採用されている工法です。日本では、1970年代ごろから数多く建築されるようになりました。

名前の由来は、構造の主要部分が、呼称「2×4」サイズをはじめとする規格製材で構成されていたことによります。北米らしい合理的な工法で、明確な建築ルールが設けられていて、熟練の大工でなくとも建てられるようになっています。

日本においても、輸入されたときに日本式に調整しながら細かく作り方を定め、オープン工法とされました。技術基準は、建築基準法施工例に関する国土交通省告示で規定されています。

参考:国土交通省告示1540号

参考:国土交通省告示1541号

在来工法は「線材で支える」とご説明しました。一方、ツーバイフォー工法は面材で支えます。床・壁・天井の骨組みに面材を打ち付け、箱をつくるようなイメージです。

この面材で支える構造と明確な建築ルールがあることから、ツーバイフォー工法は「安全な建物になりやすい」と言われています。その反面、窓や部屋の大きさ等、ある程度の制約を受けます。

使用する木材は、北米からの輸入材と構造用合板を使います。輸入材は主にSPF(スプルース、パイン、ファー)と呼ばれる安くて加工しやすい木で、シロアリの食害に弱く、しっかり防蟻処理をする必要があります。

在来工法(木造軸組工法)のメリット

ここまで、在来工法とツーバイフォー工法の特徴を簡単にご説明しました。ここからは、それぞれの長所と短所についてご説明します。まずは、在来工法のメリットをふたつご紹介しましょう。

  • 間取りの自由度が高い
  • 無垢(むく)の木のぬくもりを感じ取りやすい

それぞれ、詳しく解説します。

間取りの自由度が高い

在来工法は、ツーバイフォー工法より自由度の高い設計ができます。たとえば、大きな開口(窓)を設けることで、採光や眺望をよくすることが可能です。

間取り変更をともなうような大規模リフォームも、在来工法のほうがやりやすいでしょう。比較的簡単に壁を抜いたり移動したりできますので、家族構成やライフスタイルの変化に合わせた改修ができます。

しかし、この「自由度の高さ」が裏目に出ているケースもあります。詳しくは「デメリット」で解説しますので、ご覧ください。

無垢(むく)の木のぬくもりを感じ取りやすい

在来工法は、構造材を室内側から見えるように露出できます。柱や梁を現し(あらわし)で仕上げたり、和室を真壁(柱を露出させた壁)にして仕上げたりすると、木のぬくもりが感じ取れる空間にできます。

ツーバイフォー工法は、天井や壁の内側全面に石こうボードが張られます。梁(はり)現しや和室の真壁は、できません (後付けの化粧材で、それっぽく見えるようにすることは可能)。

そもそも、ツーバイフォーはSPF等の安価な輸入材を集成して使いますので、露出させても美しくありません。非常に合理的な工法ですが、和の趣を出すには不向きです。

在来工法(木造軸組工法)のデメリット

つづいて、在来工法のデメリットをふたつご紹介します。

  • 建築会社によって質が違う
  • 古い住宅の耐震性が低い

それぞれ、詳しく解説します。

建築会社によって安全性が違う

先述のとおり、ツーバイフォー工法は告示で細かく建築ルールが定められています。よって、自由度が低い反面、設計者や施工者による安全性のバラツキが少なくなります。一方、在来工法はある程度自由に設計できる反面、安全性にバラツキが出ます。

たとえば、家の耐震性も設計者や施工者に委ねられていますが、一般的規模の木造住宅は構造計算(風や地震の耐性を確認する計算)が義務化されていません。ですから、大きな窓や大空間を優先するあまり、地震に弱い家ができ上がってしまう可能性もあるのです。

また、この工法は広く普及していますので、性能がよい家も粗悪な家もたくさんあります。ですから、とくに古い家を買うときはご注意ください。新築される場合は、建築会社の設計力・施工力の見極めがとても大切です。

古い住宅の耐震性が低い

先述のとおり、在来工法で建った家は品質にバラツキがあります。この状況を改善するために、大震災が起こる度に耐震性が見直され、安全性の底上げがなされてきました。

1995年の阪神淡路大震災でも在来工法の脆弱(ぜいじゃく)性が指摘され、2000年の建築基準法改正で改善されました。この安全性の底上げで、在来工法とツーバイフォー工法の耐震性の差は、ほとんどなくなっています。

しかし、この改正以前の建物については建築年代の古いものほど良し悪しの差が大きく、耐震性が低いものもたくさんあると予想されます。中古住宅を購入されるときは、住宅診断等を活用して安全性をご確認ください。

2000年以降の物件や新築の安全性については、工法ではなく、耐震等級等の客観的に比較できる基準で比べていただくとよいでしょう。

大ツーバイフォー工法(2×4工法)のメリット

つづいて、ツーバイフォー工法のメリットをふたつご紹介します。

  • 設計者や施工者による安全性の差が出にくい
  • 気密性・断熱性・耐火性などを上げやすい

それぞれ、詳しく解説します。

設計者や施工者による安全性の差が出にくい

度々ご紹介しているとおり、ツーバイフォー工法は建築ルールが明確に規定されています。そのルールにのっとって設計すれば、安全性の高い家ができます。

とは言え、そのルールを無視して設計・施工している建築会社がないとは言えません。その点にご注意いただき、誠実な建築会社に家づくりを依頼していただきたいところです。

また、ツーバイフォー工法の構造材は、継手・仕口などの複雑な加工が要りません。使用する釘も専用の4種類だけであり、それぞれ色がついているので誤使用が起こりにくくなっています。

このように熟練の勘や技術を必要としない工法ですから、職人不足が深刻な現在、さらにシェアを伸ばしていくかもしれません。

気密性・断熱性・耐火性などを上げやすい

ツーバイフォー工法は面材で構造を覆ってしまいますので、高気密化や高断熱化しやすい工法と言えます。そのため寒い地域ほどよく採用されていて、北海道の着工数は全国平均の2倍程度多くなっています。

参考:北海道はツーバイフォー工法の都道府県別シェアがダントツのNo.1

また、構造の骨組みとなる枠組材が火災時に火の回りを止める働きをするため、耐火性能も優れています。比較的簡単に「省令準耐火建築物」にすることも可能で、条件を満たせば火災保険が大幅に安くなります。

ツーバイフォー工法(2×4工法)のデメリット

つづいて、ツーバイフォー工法のデメリットをふたつご紹介します。

  • 間取りや開口の取り方に制約がある
  • 採用している建築会社が少ない

それぞれ、詳しく解説します。

間取りや開口の取り方に制約がある

先述のとおり、ツーバイフォー工法は、だれが設計・施工してもある程度の安全性が担保される工法です。その反面、設計の自由度が下がります。

たとえば、ツーバイフォー工法は壁で支える構造ですから、間取りに大空間や大開口を取り入れることが苦手です。これは、段ボール箱を想像するとわかりやすいでしょう。面の一部を四角くくりぬくと強度が下がり、その大きさが大きいほど箱は弱くなります。

窓や間取りの変更をともなうリフォームも、得意ではありません。ですから、最初の設計時点で、将来の家族構成やライフスタイルを見据えた設計をおこなうことが大切になります。

採用している建築会社が少ない

毎年建築される木造住宅のうち、ツーバイフォー工法で建てられた家のシェアは1~2割程度です。まだまだ普及しているとは言いがたく、建築ルールを知っている設計士や職人も少ないのが現状です。

そうなると、施工のスピードを上げたくても応援に入ってくれる大工がいない、といったことが起こります。施工会社が廃業した際、リフォーム等を依頼できる会社を探すのも苦労するでしょう。

なお、採用している会社が多い在来工法は、ローコスト系メーカーからハイクラスのメーカーまで幅広く存在しています。ご予算に合わせた建築会社選びが可能です。

【まとめ】在来工法のメリットとデメリット

在来工法は、大震災等をきっかけに安全性や建築ルールが見直され、より良いものにバージョンアップし続けています。一方、ツーバイフォー工法も日本にローカライズされ、我が国の気候風土にあった仕様に改められています。

その結果、両者の違いは徐々になくなり、メリットやデメリットの比較が難しくなっています。とは言え、設計の自由度等の違いからくる長所・短所や注意点は依然としてあります。

ですから、あなたに合った工法を選ぶと同時に、どちらを採用するにしても、ちゃんと設計・施工してくれる建築会社を選ぶことが大切です。ぜひ基礎知識を身につけて、建築会社の選定眼を養ってください。